エキシマレーザー(Excimer Laser)は、より厳密にはエキシプレックスレーザーという名称で知られているレーザーで1960年にFritz Houtermansにより提案された、非常に歴史の長いレーザーです。
希ガス(Ar, Kr, Xeなど)とハロゲンガス(F₂, Cl₂など)を基にした反応性ガス混合物を、ミラーで封じきったチャンバー内に封入し、そこに高電圧でエネルギーを与えることで、励起錯体(Excimer/Exciplex)を形成し、短寿命かつ高エネルギー状態からの緩和過程において深紫外域(DUV)の光を出力するパルスレーザーです。
代表的な波長帯はArF(193nm)、KrF(248nm)、XeCl(308nm)などで、可視光よりもはるかに短い波長を実現します。これにより、光の回折限界を超えるナノスケールのリソグラフィーが可能となり、最先端のLSI製造で用いられてきました。
エキシマレーザーによる材料除去は、熱伝導をほぼ伴わないフォトアブレーションによって行われ、低熱負荷・非接触・高精度なマイクロマシニングを実現します。特にバイオ材料や高分子材料への微細加工において威力を発揮します。
優れたビーム均一性とパルス安定性 パルス幅はナノ秒オーダー、繰り返し周波数は1000Hz以上も可能です。波面整形やビームホモジナイザーとの組み合わせにより、高いフルエンス均一性とパターン安定性が要求されるプロセスにも対応します。
このような特性を併せ持つエキシマレーザーは、「波長・パルス幅・ピーク出力」の制御性が高く、物質との選択的な相互作用と量産技術としてのスケーラビリティを両立できる稀有な光源です。
他のレーザー技術が進化した今日も、微細加工を始め、薄膜生成、ファイバーブラッググレーティング、近視治療(レーシック)をはじめとする様々な医療用途、フォトルミネッセンスなどの様々な用途で利用されています。
ATL Lasertechnikは1993年に設立されたエキシマレーザーの専門メーカーです。従来の大型エキシマレーザーと高周波励起UV光源の中間のニーズを満たす新しいレーザ技術を開発しました。
同社のATLEXシリーズは、金属-セラミックレーザ管を採用しており、157nm、193nm、248nmにおいて矩形の高品質ビームで発振します。この金属-セラミックレーザ管により、エキシマレーザが抱えるガス汚染を低減し、静的ガス寿命が大幅に向上しました。
プレイオナイゼーション?
高電圧をかけて放電を起こすとき、ガス中に電子がないと放電が不安定になります。これを防ぐためには、予め弱い放電や高電解で少量の電子やイオンを生成する必要があります。これをプレイオナイゼーションといいます。
プレイオナイゼーションをすると放電が安定するのね。
放電が安定するとどんなメリットがあるの?
5つのメリットがありますよ。
1.ビームの均一性が向上します
2.ビーム発散角が小さくなります
3.高電圧を低減できます
4.ガス汚染の低減ができます
5.寿命が伸びます
均一なプロファイル
ATLEXのソフトウェアは非常に使いやすく、直感的にご利用いただけます。
Laser Controlタブ(以下図左)ではレーザ発振の制御のほか、温度モニタリングやレーザステータスの確認ができます。
Gas Controlタブ(以下図右)では自動ガス交換が行えます。レーザ内のガスバルブは自動で開閉し、ユーザは画面上の指示に従いガスバルブやレギュレータの開閉を行うだけのシンプルなオペレーションとなります。
Settingタブ(以下図左)では制御PCとの接続設定やログファイルの設定を行い、Infoタブでは各種パラメータを人目で確認することができます。
ATLEXにはモニター用のパワーメータが内蔵されており、レーザ発振時に常時パルスエネルギーを計測します。これにより、エネルギーを一定にしあ発振が可能となります。
内部のパワーモニタはユーザが校正することができます(以下図)。
レーザ加工では、窒素やアルゴンの不活性ガスを使用して、レーザ出力から加工物までのビーム経路をパージ(清浄化)することが一般的です。これにより、酸素によるUV九州、オゾンや揮発性汚染物の生成、光学部品へのダメージを抑制することができます。
ATLEXでは真空チューブに簡単に取り付けられるオプティクスマウントを提供しており、光学部品の交換時にも光軸のアライメントが維持されレーザ管が密閉された状態を保つことが可能です。
製品
ガス種 | F2 | ArF | KrF | XeCl | XeF |
---|---|---|---|---|---|
波長 | 157nm | 193nm | 248nm | 308nm | 351nm |
高電圧スイッチ | 半導体素子 | ||||
最大パルスエネルギー | 1mJ | 8mJ | 15mJ | 8mJ | 7mJ |
安定パルスエネルギー | 0.5mJ | 4mJ | 8mJ | 4mJ | 3.5mJ |
安定平均出力 ATLEX-300-I ATLEX-500-I |
0.15W 0.25W |
1.2W 2W |
2.4W 4W |
1.2W 2W |
1W 1.7W |
最大繰り返し |
300Hz 500Hz |
||||
パルス幅 | 5-8ns | ||||
ビームサイズ | 4 x 6mm | ||||
ビーム拡がり角 | 1 x 2 mrad | ||||
エネルギー安定度 | <2% | ||||
寸法 | 540 x 470 x 370mm | ||||
重量 | 60kg | ||||
冷却 | 空冷/水冷 | ||||
消費電力 | 230VAC, 6.3A. 単相, 50/60Hz |
ガス種 | ArF | KrF |
---|---|---|
波長 | 193nm | 248nm |
高電圧スイッチ | 半導体素子 | |
最大パルスエネルギー | 8mJ | 15mJ |
安定化パルスエネルギー | 4mJ | 8mJ |
安定化平均出力 ATLEX-500-L ATLEX-1000-L |
2W 4W |
4W 8W |
最大繰り返し周波数 ATLEX-500-L ATLEX-1000-L |
500Hz 1000Hz |
|
パルス幅 | 5 - 8ns | |
ビームサイズ | 6 x 4mm | |
ビーム拡がり角 | 2 x 1mrad | |
エネルギー安定度 | <2% | |
寸法 | 600 x 415 x 572mm | |
重量 | 70kg | |
冷却 | 空冷/水冷 | |
電源 | 230VAC, 10A, 単相, 50/60Hz |
ガス種 | ArF | KrF |
---|---|---|
波長 | 193nm | 248nm |
高電圧スイッチ | 半導体素子 | |
最大パルスエネルギー | 8mJ | 15mJ |
安定化パルスエネルギー | 4mJ | 8mJ |
安定化平均出力 ATLEX-300-FBG ATLEX-500-FBG |
1.2W 2W |
2.4W 4W |
最大繰り返し周波数 ATLEX-300-FBG ATLEX-500-FBG |
300Hz 500Hz |
|
パルス幅 | 5 - 8ns | |
ビームサイズ | 6 x 4mm | |
ビーム拡がり角 | 1 x 2mrad | |
エネルギー安定度 | <2% | |
寸法 | 540 x 470 x 370mm | |
重量 | 60kg | |
冷却 | 空冷/水冷 | |
電源 | 230VAC, 6.3A, 単相, 50/60Hz |
ガス種 | ArF |
---|---|
波長 | 193nm |
高電圧スイッチ | 半導体素子 |
最大パルスエネルギー | 12mJ |
安定化パルスエネルギー | 4mJ |
安定化平均出力 | 1.2W |
最大繰り返し周波数 | 300Hz |
パルス幅 | 5ns |
ビームサイズ | 4 x 6mm |
ビーム拡がり角 | 1 x 2mrad |
エネルギー安定度 | <2% |
寸法 | 540 x 470 x 370mm |
重量 | 60kg |
冷却 | 空冷/水冷 |
電源 | 230VAC, 6.3A, 単相, 50/60Hz |
半導体製造(フォトリソグラフィ)
フォトリソグラフィは半導体製造において微細な回路パターンをシリコンウェハ上に転写する工程です。集積回路製造における重要なプロセスであり、ナノメートルオーダーの微細加工を必要とします。
この工程では、ウェハ表面に感光性の材料(フォトレジスト)を均一に塗布し、回路パターンが描かれたフォトマスクを通して、紫外線照射することにより、照射箇所を変質させます。これを現像することにより紫外線が照射された箇所(あるいはされなかった箇所)を除去し、その後、プラズマによりエッチングすることにより回路を形成します。
エキシマレーザは波長が短いため、このプロセスに適したレーザです。超微細な回路パターンをシリコンウェハに形成するために使用され7nm世代までのプロセスを支えてきました。
微細加工
樹脂、ガラス、化合物などへのサブミクロン精度の微細加工に活用されます。
エキシマレーザは波長、パルス幅が短く、集光性に優れ、かつ熱影響の少ない加工が可能となります。
これによりポリマーへの微細な穴あけなどに使用されます。
パルスレーザ堆積(PLD)
材料表面に高エネルギーのパルスレーザを照射し、飛び出た原子や分子を別の基板上に堆積させて成膜する工法です。ターゲット材料にレーザ照射することにより、材料を局所的にアブレーションさせ、発生したプラズマが真空中で飛び、向かいの基盤に堆積します。ナノメートル精度の高品質な薄膜が形成されます。
エキシマレーザはパルスエネルギーが高いレーザで、溶融プロセスのない瞬間的なアブレーションが可能です。熱的ダメージが少なく非常に高品質な加工が行えます。
光化学反応
材料表面や気相中の化学結合を直接切断し、特定の化学反応を選択的に進行させるプロセスです。気相中の前駆体ガスにレーザを照射することで、局所的に分解し薄膜形成を行ったり、材料表面の有機汚染除去(UV洗浄)、表面酸化・パッシベーション、表面エッチング、多結晶シリコンの再結晶化や有機薄膜への加熱処理のようなレーザアニールにも応用されます。
眼科手術(屈折矯正、角膜切開)
レーシックは角膜にフラップを作り、内部の角膜実質をレーザで削ることにより屈折矯正します。PRKは表層の角膜費を除去することにより屈折を矯正する眼科手術です。これらにおいて、生体組織に強く吸収され、表面のみを熱影響無しでアブレーションすることができるArFエキシマレーザが利用されています。
皮膚疾患治療
皮膚疾患治療にもエキシマレーザが応用されます。例えば尋常性乾癬の場合、XeClエキシマレーザ照射により過剰な細胞増殖を抑制する効果が、白斑の場合はメラノサイトの再活性化が、アトピー性皮膚炎の場合は炎症を抑える効果が期待されます。
分析分野
レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析(LA-ICP-MS)
レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析は高精度で高分解能な元素分析手法です。資料をレーザでアブレーションし、生成した微粒子をキャリアガスで運搬します。高温のプラズマ中で、その微粒子をイオン化し、質量分整形で検出します。地質学・鉱物学、材料科学、生物医学、環境分析、考古学などで応用されています。
レーザー誘起ブレークダウン分光(LIBS/LIPS)
固体・液体・気体の元素分析を高速かつ非接触で行う光学分析手法です。
高エネルギーのパルスレーザを試料表面に照射することにより、レーザ誘起プラズマが発生します。このプラズマが冷却される過程で各元素特有の波長が放出されます。この発光スペクトルを分光器で測定することにより分析を行います。材料分析、環境調査、文化財調査、産業現場のリアルタイム監視、医療・生物分野で応用されます。
エキシマレーザは様々な材料に対して吸収しやすく、効率よくプラズマを発生させることができるのと、好エネルギー密度で微細な照射が可能であることから、高い分解能で分析を行うことが可能となります。