ビームシェーパーとは
昨今の市場においては様々なレーザ加工機が流通しています。レーザ加工機を選定する際には、アプリケーションに合わせて以下のパラメータから自由な選択が可能です。
CWまたはパルス?
レーザ出力(平均パワー、パルスエネルギー)
レーザ波長(EUV、DUV、UV、VIS、NIR、MIR、FIR)
パルス幅(ms、us、ns、ps、fs)
スポット径
繰り返し周波数
ビーム走査スピード(XYステージ、ガルバノ、ポリゴン、ロボット)
アシストガス(圧力、種類)
こういったパラメータに加え、昨今ではビーム強度分布(ガウシアン、トップハット、逆ガウス、ドーナッツ、マルチフォーカス)、ビーム形状(円形、矩形、ライン、楕円、長方形)についてもより自由度をもって選択ができるようになってきています。
なぜビームシェーピングが必要?
<<理由その1>>
左図はピコ秒レーザを使ったCIGS除去加工の結果を表したものです。図の左側がガウシアンビームで行ったもの、右側がトップハットビームで加工を行ったものです。
ガウシアンビームで加工を行ったものは熱影響域(HAZ)が見られ、ビーム強度の強い中心部では基板であるモリブデンにもダメージが入っています。一方トップハットビームで加工を行ったものはHAZがなく、全領域が均一に除去されています。
このようにトップハットビームにすることで、HAZを減らし、均一な加工を行うことが可能となります。
<<理由その2>>
ガウシアンビームで加工を行う場合、例えば、加工に必要な強度をIhとすると、その加工に必要なエネルギーの領域は図の左に示した灰色のエリア(E3)となります。逆にそれ以外のエリアは無駄なエリアとなり、E1は過剰エネルギー(このエリアが上記CIGSのモリブデン基板ダメージの要因となります)、E2は加工に至らないレベルとなります。(このレベルが上記CIGSのHAZの原因となります)
図の右側はE1、E2、E3、E1+E2について、その関係を示したものです。E1+E2が最も小さくなり、E3が最も大きくなるのが理想ですが、ガウシアンビームの場合、ベストケースでもE1+E2が全体の63%となります。この加工では全エネルギーの63%を無駄にしていることになります。
ビームシェーピングを行うことで、エネルギーを有効活用することができます。
<<理由その3>>
図の上はレーザの強度分布を示しています。赤がTEM00、紫がトップハット、青がドーナッツです。下はそれぞれのレーザがワークに照射された時の熱分布を示しています。
例えば、TEM00のビームがワークに照射された時、照射されたエリアの熱分布はガウス形状となります。一方、トップハットのビームが照射されると、ドーム型の熱分布を持ちます。これはビーム中心よりも端のほうが熱伝導の影響で低温になるためです。
レーザ溶接やレーザ焼入れなどの熱加工を行う場合、ワーク上で均一な熱分布になることが望ましいとされています。
均一な熱分布を持つためにはドーナッツ型のビームプロファイルが必要で、ビームシェーパーはこのようなプロファイル生成にも非常に役立ちます。
<<理由その4>>
ファイバレーザの出現により、レーザ切断は飛躍的に進化を遂げ、これまで使われてきたCO2レーザはファイバーレーザに置き換わってきています。ファイバーレーザを使うことで非常に高速な金属切断が可能となり生産性が格段に向上しました。
しかしながら、ファイバーレーザはそのビーム強度分布から、薄板の切断は得意としますが、アシストガスに酸素を使う厚板の切断は苦手であるという側面を持ちます。レーザの強度が均一でないため、酸素を使った場合、出力を上げられないという問題が出てくるからです。
ビームシェーパーによりドーナッツ形状を生成することで、ファイバーレーザを使って厚板の切断を高品質に行うことが可能となります。
ビームシェーパーの種類
ビームシェーパーには様々なタイプがあります。DoE(回折格子=Diffractive Optical Element)、ホモジナイザ、フィールドマッピングなどがあります。
それぞれのビームシェーピング技術について解説します。
DoE(回折格子=Diffractive Optical Element)
DoEは石英やZnSeなどの光学基板表面に波長オーダーの凹凸を形成することで意図的に回折現象を起こしビームシェーピングを行う光学素子です。デザイン次第ではあらゆるビームプロファイルを生成することが可能となります。
一方で、デザインが複雑な上、製造時に露光マスクが必要となるため、初期費用が高いというデメリットがあります。また単一波面に対しての設計となるため、マルチモードレーザにおいては十分なパフォーマンスが期待できないという面があります。
ホモジナイザ
ホモジナイザは入射するビームを小さなビームに分割し、レンズのバックフォーカスの位置でトップハットビームを形成する光学系です。入射ビームのプロファイルに依存しないトップハットビームを作ることが可能ですが、一方で、スポットビーム径が大きくなってしまう、シングルモードではスペックルが出るため使用ができないなどのデメリットがあります。
マルチモードのビームを長方形のトップハットに成形するなど、レーザ焼入れのようなアプリケーションには最適です。
フィールドマッピング
入射するレーザ強度分布を変換するビームシェーパーです。Airy Diskを生成する集光型ビームシェーパーと、トップハットを出力する結像型ビームシェーパーがあります。
フィールドマッピングタイプのビームシェーパーは透過率が高く、高出力レーザでの使用が可能で、トップハット以外にもドーナッツや逆ガウスなど多様に対応できるという特徴があります。